フィリピン新大統領誕生

(1)新大統領マルコスとは
6年に1度のフィリピン大統領選が5月9日に投開票を終え、元上院議員のフェルディナンド・マルコス氏(通称ボンボン・マルコス氏)の当選が確実となりました。
投開票前の世論調査でもマルコス氏は現職副大統領のレニー・ロブレド氏や元プロボクサーで上院議員のマニー・パッキャオ氏など有力候補を上回る支持を集めており、そのまま独走状態を維持して大統領選を制することになりました。
世論調査機関による非公式の集計によれば、元独裁者の息子で同名のマルコス氏は、3,000万票以上を獲得し、1986年のエドゥサ革命で父親が追放されてから36年後にマラカニアン宮殿に戻ることになりそうです。
マルコス氏は選挙戦で、フォロワー数が600万人を超えるフェイスブックなどのSNSを巧みに使って自らの主張を発信し、有権者に直接、支持を訴えました。
マルコス一族は90年代に亡命先から戻って以来、莫大な資産と広範な人脈を背景に政治の一大勢力として影響力を保ってきました。2016年の副大統領選でロブレド氏にわずか20万票差で敗れましたが、今回の大統領選はマルコス氏にとって雪辱を果たす形になりました。

(2)新大統領に対する経済界・株式市場市場の反応
経済界や海外投資家や企業は、マルコス氏の経済チームの発表を待っています。
次期大統領の経済政策の詳細が明らかにならない中、フィリピン総合指数(PSEi)は5/10火曜日の朝に3.1%下落しました。
もっともこれは、米国を中心とする世界的な株安基調の影響もあります。
また、マルコス氏は選挙キャンペーン中に経済政策を明確に提示してこなかったことが要因だと、BPIリードエコノミストのEmilio S. Neri氏は述べています。
次の政権は、海外からの投資を誘致するために環境、社会、ガバナンス(ESG)を促進する政策を実施する「信頼できる」「有能な」経済チームが重要となります。
Bloomberg とのインタビューで、フィリピン証券取引所(PSE)の社長兼最高経営責任者であるRamon S. Monzon氏は、外国人投資家がマルコス氏の経済チームのメンバーが誰になるかを見守っており、今は経済チームが誰であるかを確認するための短い待機期間と述べています。
政府の債務残高は、コロナ対策支出により、3月末時点で過去最高の12.68兆ペソであり、対外債務は前年比25.8%増の3.81兆ペソとなっています。
政府は今年、国内総生産(GDP)の7〜9%の成長を目標としていますが、進行中のパンデミック、ロシアとウクライナの戦争、高インフレが、このターゲットに暗雲をもたらしているのが現状です。
一方で、マルコスファミリーの歴史から、汚職、縁故主義、貧弱なガバナンス・コンプライアンスに対する懸念が投資家の間であることも事実です。
実は、同様の懸念が2016年のドゥテルテ氏の選挙での勝利の際にも指摘されていましたが、実際の経済のパフォーマンスに大きな低下はなく、コロナ禍の2020年、2021年の特殊な年度以外は、従来のフィリピン経済の成長が維持されました。

(3)新大統領マルコスの経済政策
具体的かつ詳細な経済政策は明らかになっていませんが、基本的にはドゥテルテ大統領の政策継承を提唱しているため、大規模交通インフラ開発プログラム「ビルド・ビルド・ビルド・リンク・リンク・リンク」と中国との緊密な関係の継続が行われる見通しです。
また、国の経済成長を支える大規模なビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)と外貨獲得の巨大な源である海外で働くフィリピン人(OFW)を強化する政策を継続すると見られています。
​​ただ、マルコス氏は同盟国アメリカについても「特別な関係」と言及していて、安全保障面ではアメリカや日本との良好な関係を保ちながら、国益を最大化するためにバランス外交にかじを切っていくものとみられています。
また、副大統領戦では、マルコス氏の副大統領候補として選挙戦を戦った現職のドゥテルテ大統領の長女サラ・ドゥテルテ氏が大きくリードしており、この面からも、ドゥテルテ大統領の政策が継続されるとみられています。フィリピンでは大統領と副大統領は別々に選出されます。
つまり総じて、マルコス政権下では、ドゥテルテ政権の経済政策の継続性が見込まれています。
新政権の経済政策については、今後随時レポートさせていただきます。

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