自動車用アンテナ製造大手のヨコオ(東京都北区)は、フィリピンで建設している車載通信機器向け中継コードの新工場で2022年4月にも量産を始めます。本社や海外の主要拠点から技術移転しやすいことが進出の決め手となり、新型コロナウイルス禍にもかかわらず建設は予定通り進んでいます。1年後に月70万本を生産し、日米欧に製品を供給する計画です。
新工場はマニラ首都圏北方のバターン州のヘルモサ・エコゾーン工業団地に建設中です。敷地面積は3万6,866平方メートルで、建屋の延べ床面積は1万1,025平方メートルです。投資額は約20億円です。同社役員は「7月中旬時点の工事進捗(しんちょく)率は約35%」と述べ、順調に進んでいるとの見方を示しました。
稼働後はまず、車載通信機器用の中継コードから製造を始めます。23年3月末までに月70万本、24年3月末までに月140万本の生産を目指します。25年からは自動車用アンテナも製造する予定です。
ヨコオは現在、ベトナムの工場で欧米や日本、東南アジア向けに製品を製造しています。フィリピンの新工場が稼働すれば欧米と日本向けに生産します。ベトナム工場では国内や日本、東南アジア向けを製造するよう切り替える予定とのことです。
先進国はフィリピンに対し、一般特恵関税制度(GSP)を適用しており、これらの国に輸出する際は関税優遇措置が期待できそうです。米国向けは2020年末で失効したが、延長法案が米国で提出されています。法案が通ればさかのぼって申請が可能になります。欧州連合(EU)向け輸出にもGSPが適用されています。
フィリピンでの事業展開には課題もあります。国内には部品メーカーが少なく、現地調達率の引き上げが難しいので、ヨコオは樹脂部品など一部を自社グループ内で製造することで補う計画を立てています。
新型コロナの感染が拡大して以降、フィリピン政府は20年3月から約1年5カ月にわたって感染対策として世界でも厳しい外出・移動制限措置を敷いています。企業活動にも影響を与えていますが、ヨコオは長期的な戦略を見据え、フィリピン事業を軌道に乗せたい考えです。
製造業にとっては、今年4月に施行された企業復興税優遇法(CREATE)への対応も課題になります。これまで輸出企業に半永久的に付与していた税優遇を10年間に限定することが盛り込まれています。同社は「11年目以降は事業計画の修正を迫られる可能性はあるものの、現時点で税制変更による影響はない」との見方をしています。
この記事の監修
一般社団法人 フィリピン・アセットコンサルティング
エグゼクティブ・ディレクター
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慶応義塾大学経済学部卒業後、東急に入社し、海外事業部にて、米国・豪州・ニュージーランド・東南アジアなどで不動産開発や事業再構築業務に従事。
また、経営企画部門にて東急グループの流通・メデイア部門の子会社・関連会社の経営・財務管理を実施した。(約15年)
その後は、コンサルティングファーム(アクセンチュア)や投資ファンド(三菱UFJキャピタル)などで、企業や自治体の事業再構築、事業民営化等の支援や国内外のM&A案件のアドバイザリーを実施し、2018年10月より、GSRにて、日本他の投資家および企業、ファンドなどに対してフィリピン不動産への投資や事業進出のアドバイザリーを行っている。